スタンドからは久々の

「ユタカ・コール」が湧き上がる。

ウイナーズサークルのお立ち台で

左手をあげて大声援に応えるのは、

当代随一のスター騎手。

実に2年ぶりというGⅠ戴冠の感慨に浸る一方で、

笑顔の奥には、競馬界を牛耳る巨大組織の

「進路妨害」への苦悩が深く刻まれていた─。

「そんなことは言ってません」

「お久しぶりです!

またこういう場に立つことができて、

誰よりも僕がいちばんうれしいです」

マイルCS(11月18日・京都)で

4番人気のサダムパテックを

GⅠ初勝利に導いた武豊ぶりの戴冠という喜びを

自身も2年しめつつ、続けてこうも吐露した。

「GⅠレースだけじゃなく、

勝ち星自体が以前と比べると激減だし、

『こんなはずでは‥‥』

という気持ちでやってきて、

3年くらいたちました」

歴代最多記録を誇る武のGⅠ初制覇は、

デビュー2年目(88年)の菊花賞。

それから23年続いたGⅠ勝利は昨年ついにとぎれ、

今年もダメか‥‥

との感が強まっていた。

マイルCSでどうにか

2年連続V逸は免れたものの、

近年「落日の天才」の様相を呈することになった

重大要因は、思わぬところにあった。

「競馬界最大の勢力、

生産者であり馬主でもある社台グループとの確執です。

現在の競馬は『社台の運動会』と揶揄されるほど、

社台グループの牧場で生産された馬が圧倒的多数、

走っている。

日本の競馬界は社台が牛耳っていると言っていい」

(競馬ライター)

さながらテレビ界、

芸能界におけるジャニーズ軍団のごとく、

圧倒的な力を誇る巨大集団。

それを敵に回したというのである。発端とされるのは、

審議レースとなった10年のGⅠ、

ジャパンカップ(JC)。

1位入線のブエナビスタが

進路妨害で2位降着となり、

2位入線した武騎乗の

ローズキングダムが繰り上がり優勝した。

ローズキングダムは社台グループの牧場

ノーザンファームの生産馬だ。

スポーツライターのK氏が語る。

「当該騎手の武と(ブエナビスタ騎乗の)スミヨンは

検量室でパトロールフィルムを見ながら

裁定委員に事情を聞かれ、

武はそこで『あのブエナはアウトでしょ』

と主張したということになっています。

スミヨンは降着の裁定を

自身のブログで批判的に書いたらしく、

オーナーや関係者にも

同様のことを話しただろうことは想像できます。

社台グループはスミヨン、ルメール、デムーロ

といった外国人を

世界一乗れる騎手と考えて神格化しているから、

言い分を信用したのでしょう」

ブエナビスタもノーザンファームの馬であり、

どちらが勝ってもいいじゃないか、

とはた目には映る。

だが、社台グループの牧場、

社台ファームの代表で、

グループの総帥的立場の吉田照哉氏は

“武発言”を問題視した。

K氏が続ける。

「武本人は『そんなことは全然言ってません。

どんな不利があったかと聞かれて、

“まくりはありました”と答えただけ』

と話していました。

そもそも裁定の中で騎手が

アウトだなどと言えるはずがないし、

言う権限もない。

全ては誤解からくる話でしょう。

武も『自分が(アウトだと)言ったという噂があるんですよね』

と悩んでいましたよ」だが、真実はどうあれ、

「もう武には乗せるな、というお達しというか、

絶縁状が出されました」

(競馬解説者H氏)

吉田氏の逆鱗に触れてしまったのである。