「ハナ差」「クビ差」など、その接戦ぶりを
独自の表現で表す競馬レースの世界。
まったく同じ着差/着順のことは「同着」と呼ぶ。
史上初のGⅠ同着となった2010年オークス
アパパネ&サンテミリオン。
オークスの現場にもいた、
S氏が検量室での一幕を語る。
接戦のことを「デッドヒート」と言いますが、
これはそもそも競馬用語なんです。
英米では競馬の同着の意味に当たります。
実はゴール前の接戦は競馬の専売特許のようなもので、
これには馬という動物の習性が関係しています。
馬は捕食動物から逃げるもの。
それも群れ(集団)で逃げます。
競馬は最大18頭で競走しますが、
先頭の馬が並んで走っていくことは、
実はわりと普通のこと。
ですから競馬の趣意は、むしろ
「常に接戦になるから
馬にレースをさせるとおもしろいね」
ということかもしれません。
同着で確定した2010年のオークス。
私は、あのレースが行われた
東京競馬場の検量室の前にいましたが、
JRAの職員が着順を示すホワイトボードに
「同着」と書き込んだ瞬間にどよめきが上がりましたね。
と同時に、期せずして、厩舎関係者か報道陣からか、
「だったらダイワスカーレットと
ウオッカも同着でいいじゃないか!」
という叫びが聞こえました。
というのは、これまた競馬史上屈指の名勝負と呼ばれている
08年の秋の天皇賞のことを誰もが思い出していたからです。
出走全17頭が重賞ウイナーという好メンバーから、
ダイワスカーレット(安藤勝騎手)が逃げ、
直線はライバル・ウオッカ(武豊騎手)が
ぐんぐんと追い込む一騎打ち。
レコード決着となった名手同士のハイレベルのレースは、
ウオッカが2㌢だけ差し切っていた。
騎手が一流だと名勝負の純度が高まります。
あのレースもやはり長い写真判定になりましたが、
両馬とも人気があったし、
「これだけの名勝負は同着でもいいんじゃないか?」
という空気が確かに流れていたんです。
けれども決着をつけた。
だから
「やっぱりGⅠは同着ナシなんだな」
と納得したのも事実。
しかし、オークス以降、GⅠの1着同着が解禁‥‥
となったかどうかわかりませんが、
僕としてはまた起こってほしいですね。